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 四月八日月曜日。  時計の時刻は六時を指した時、部屋の中で目覚まし時計のアラームがけたましく鳴り響いた。  もぞもぞと掛け布団の中から「……寒い……」と微かな少女の声がする。  彼女はゆっくり細い指をした左手を伸ばし、目覚まし時計を止めた。 「今日は始業式かぁ……」  少女は本当は温かい布団の中にいたい気持ちを抑えながら、寝ぼけ眼で部屋の壁に貼ってあるカレンダーを見る。  8(本日)のところに大きな丸と『始業式。祝、3年生!』と書かれていた。  彼女の名は木野(きの) 友梨奈(ゆりな)。  中高一貫校である私立花咲大学付属中等学校に通う中等部三年生。 「クラス替え、不安だけど楽しみだなぁ……」  友梨奈はクラス替えが楽しみなのだろうか。  次に彼女はカレンダーから視線を放し、本棚のところへ移動する。 「おはよう、友梨香(ゆりか)」  友梨奈は本棚(そこ)の上にに置いてある写真立てを手に取り、話しかけた。  その写真はどこかのコンクールか定期演奏会の時に撮られたものらしく、持っている楽器と髪型は異なるが、同じ顔の二人が写っている。  サラサラのショートボブでクラリネットを持った彼女()と同じくロングヘアーでフルートを持った友梨香()。  彼女らは一卵性の双子だったが、友梨香は交通事故のため、先立たれてしまったのだ。  これからは友梨奈が彼女の分も生きなければならないと――――。 「友梨香、私は今日から三年生だよ。友梨香も私と一緒に三年生になりたかったよね……」  写真を通じての彼女らの会話が続いている。  しかし、写真の中にいる友梨香は微笑んでいるだけなので、返事はない。  友梨奈の心のどこかで彼女からエールを感じていたのかもしれなかった。
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