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一方、やはり側のブランコで遊んでいた子供らは鼻をつまむジェスチャーをすると、「うわあ、何か公園がくさーくなってきた」と、わざわざ大きな声を上げ、嬉々とした様子で公園から走り去ってしまった。その声に反応してか、オジサンはやおら上半身をゴミ箱から起こすと、駆けて去っていった子供達の後ろ姿を覇気のない目で、手に持つコンビニのビニール袋とは別に薮(やぶ)睨(にら)みする。
子供達が帰途を急ぐ夕刻の頃。公園に残っているのは琴美とオジサンのみ。傍らで文庫本を片手にベンチで読書にふける……のではなくてゴミ漁りをしているオジサンを見つめている少女の瞳と、当のオジサンの眼が重なった。オジサンはくわえていた火の灯っていない葉巻をいったん口から離すと琴美に近づいていき、
「何ね、そんなに珍しいもんかね。この風体(ふうてい)が」
とイントネーションもたどたどしく彼女に話しかけてきた。それは荒らげた調子ではない平坦な声音。まるで感情がこもっていない。琴美はそう直感すると同時に、葉巻のオジサンは暇を持て余して誰それ構わず話しかけてくる、という情報も事前に知っていたので、特に怪訝な態度も取らず、
「そんな事ないです」
と淡白に答えた。オジサンが発した「風体」という意味は分からずとも。彼女のびん底メガネの奥の双瞳(そうしょう)は瞬きもせず、ただ切実にオジサンの眼を捉えている。オジサンはヨレヨレの葉巻をくわえ直すと、
「だったらそんなにワイを見つめるなや。若いオナゴにそんなに見られたら照れるがや」
と眉間の辺りをポリポリと掻きながら胡散臭い訛り声で琴美に話しかけた。琴美は目を逸らすと、
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