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草むしりを手抜きしたような中途半端な顎鬚をオジサンは撫でながら、黄色いシミが点在するくたびれた青白のストライプのワイシャツの胸ポケットに葉巻を突っ込んだ。胸ポケットには他にも数本の古びた葉巻が入っている。
「タバコ、吸わないんですか?」
と琴美は言うと一度本をベンチに置き、俯きがちにオジサンの胸ポケットを指差した。
「ん? ああ、葉巻ね。こいつらはもうシケちゃって火が点かないんよ」
「だったら持っていても仕方ないんじゃありませんか」
「お嬢ちゃん。男っていう生き物は見栄を張っていかなきゃならんのだよ。ダンディズムってヤツをハートに孕ませてさ。マッカーサーやチャーチルも葉巻を愛用していたべ」
オジサンは自らの心臓辺りを叩いて言った。ちょうどその部分に葉巻が入っている胸ポケットがある。
「んでな、葉巻ちゅうのはワイにとっての男の嗜みなんや。吸える、吸えないの実用的な問題とはちゃうんやで。男はよい葉巻を吸うと心が和み、女は思い切り泣くと心が和むっちゅう言葉があるけど、男はいくら落ちぶれてもスタイルは大事にせにゃいかん。そう、ポリシーってヤツやな、アンダースタン? あ、まだお嬢ちゃんにはこんな難しい話分からんか」
琴美は下唇をかみ締めながら首を傾げた。オジサンは金歯の前歯をむき出しニヤリと笑うと、
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