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7話 しゃぼん玉
しゃぼん玉が飛んだ。
青空に届くかのように、漂っては消える。
「うわー!またやって!」サチコがおねだりしながら、ストローの先を見つめている。
「しょうがないわね」と母親のマユミが、膨らませた。
「うわあ、飛んだあ!」サチコははしゃぎながら、手で掴もうと小さくジャンプする。
届かないよ。俺はそう心で呟いた。
「そんなにしゃぼん玉好きなの?」マユミはそう言って、サチコを見ている。
「あのね。顔を近づけるとサチコが映るの。ほら、ママも見て」と二人で覗いた。
マユミとサチコの顔が映っているのか、二人は笑っている。
「ほらね。お空まで幸せを運ぶんだあ」とサチコは本当に嬉しそうだ。
「本当ね。いつまでも、こうしていたいよね」
そしてマユミがこちらに振り向いた。
そこでビデオは終わった。
マユミとサチコは、事故で亡くなった。もう十年になるか。俺は何度、このビデオを見ている事か。
幸せは、いつまでも続くと思っていた。
窓を開けると、路地裏では子供達が携帯ゲームではしゃいでいた。
時代なのか、誰もしゃぼん玉をやらなくなった。
そう思いながら、俺は何気に空を見上げた。
しゃぼん玉が飛んだ。
見えないしゃぼん玉は、俺の心の中で二人の顔を、いつまでも映し出していた。
終わり
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