8話 巌流島の決闘

1/2
前へ
/18ページ
次へ

8話 巌流島の決闘

武蔵は手のひらに、人という字を書て、飲み込んだ。 すると船頭が「旦那、そのまじない、船酔いには効きませんぜ」と言った。 「いやいや、やって見なければ、うぷっ、分からんだろう」武蔵は青ざめた顔をして、今度は手のひらに、舟という字を書いて飲んだ。 「いやいや駄目でしょう。それに舟って…あんた」 船頭は呆れて何も言えなかった。 すると武蔵は「うげー、はあはあ、もう駄目、もう駄目だ」弱々しく言った。 「帰ります?旦那」船頭が訊いた。 「い、いや、そこの小さな磯に着けてくれ」武蔵はまるで、酔い潰れたOLがタクシーの運転手に無茶を言うように、磯に向けて指を差した。 「波がきつくて無理ですよ」船頭は、右手を左右に振った。 すると武蔵は、二本の木刀を杖代わりに、ヨロヨロと腰を上げながら「やって見なければ…うわあっ!」 と舟が大きく揺れ、大きく叫んだ。 「木刀が、木刀があー!」 何と弾みで海に落としてしまったのだ。 武蔵は、無情にぷーかぷーかと浮いている、二本の木刀に手を伸ばしている。 「ありゃ無理ですな。旦那」船頭もまた無情だった。 「うげーうげえ!」武蔵は四つん這いになりながら呟いた。「もういや、帰ろかな」 そして海に浮かぶ、木刀をじっと見つめていた。 その頃小次郎は。 「武蔵のやつ。おそーい!」 腹の虫を我慢して、武蔵が来るのを待っていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加