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そして。
武蔵はやったの思いで、巌流島に到着した。
「遅いぞ武蔵!いつまで待たせるつもりだ!」腹も減ってるのにと、腰に手を当て、小次郎は大声で叫んだ。
武蔵は手をかざしながら「いや、悪かった。なんせ船酔いがひどくて、うぷっ、もうなんか、ふらふらで」と言い訳している。
「武蔵!いざ勝負だ!あれ?剣はどうした?」小次郎は、武蔵が手ぶらである事に気がついた。
「いや、実は、途中で木刀を二本、海に流されてしまって」武蔵は右手を頭の後ろに当てて、軽くてへっと笑った。
「何がてへっだ!勝負にならないではないか!」小次郎は呆れ返って、その場にしゃがみ込んでしまった。
すると突然「小次郎敗れたり!」武蔵は不意をついて、小次郎の胸ぐらを掴み押し倒そうとした。
卑怯な男である。
「な、何をするのよ!」小次郎の声が変わった。
「えっ?」武蔵は小次郎の胸元から見える膨らみを見て「え、ええー?」と尻餅をついた。
「おぬし、女だったのか?道理で美男子だとは思っておったが…」
小次郎は、赤を赤らめて「女で何が悪い。天下無双に男も女も関係ないわ」と胸元を直した。
「しかし、女は切れぬ。卑怯な真似はしたくない」
と、さっきまで卑怯な手を使っていた男の言葉とは思えない。
「今日はもう遅い。どこかで宿を取って、続きは酒を呑み交わしながらどうだ?」と武蔵は小次郎にすり寄って行った。
「ちょっと!どさくさに何触ってんのよ!」と小次郎は武蔵の手の甲を、ぴしゃりと叩いた。
「いいじゃん。せっかくなんだし」
もう、ただのおっさんである。
すると武蔵の背中から「旦那、ちょっと旦那」と船頭が声をかけて来た。
「何だよ、いいところなのに」武蔵はぶつぶつ言っている。
「いやあね。いちゃつくのはいいんですが、もうすぐ満潮なんでね。早くしねえと戻れなくなりますぜ」と船頭はにやにや笑ってる。
「ええ?本当に?何だよもうー!」武蔵は駄々をこねていた。
後々、巌流島の決闘は、こうして語り継がれて行ったのだった。
事実かどうかは別にして。
終わり
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