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9話 雨の奇跡
雨の降る日は、人恋しくなる。
彼との最初の出会いも雨でした。
高校二年の夏、校舎の片隅で雨が止むのを待っていた私に、声をかけてくれたのが彼でした。
学園祭の打ち合わせで遅くなった私を、彼は雨の中ずっと待っていてくれました。
卒業式では夕立の中、二人びしょびしょになりながら、駅まで走って帰りました。
それから二人は別々の町に就職が決まり、遠距離恋愛が始まりました。
月に一度しか会えませんが、それでもとても幸せでした。
その日も雨でした。
私は会議が長引いてしまい、待ち合わせに一時間はとうに過ぎていました。
私は慌てて、会社を飛び出しました。
すると待ち合わせ近くで、何やら沢山の人だかりが出来ていました。
何だろう?と思いながら、待ち合わせ場所に到着しました。
しかし、彼はいませんでした。どうしたんだろう?
携帯も繋がりません。
結局、彼は現れませんでした。
そして彼の事故を聞いたのは、翌日の事でした。
聞くところによると、彼も遅れて慌てて走っていたそうです。
そこに運悪く、信号無視したトラックが、彼に突っ込んで来たとの事でした。
そんなに急がなくたって…私ならいつまでも待っているのに…
彼はもうすぐ退院します。
雨でスリップした事が、正面衝突を避けられた原因なんだとか。
命に別状なかったのは、奇跡だそうです。
雨は私に、いつでも奇跡を起こしてくれるのです。
終わり
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