1話 ハイジャック

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飛行機の客席で、突然女性が倒れた。 女性乗務員が駆け寄り「誰か!誰かお医者様はいらっしゃいませんか?」と辺りを見回した。すると白髪混じりの紳士が「私は医者です」と手を挙げた。 すぐに女性を座席に座らせて、医者は鞄から道具を取り出した。 そして女性の口を大きく開け「ほー、奥歯に虫歯が、C4ですなあ。なるほど」と言っている。 乗務員は「歯医者かよ!何見てんのよ!」と怒鳴った。と、その時「待ちなさい」と後ろで声がした。 そこには銀縁眼鏡の老紳士が立っていた。 「私も医者です」と歯医者を突き飛ばした。 銀縁の老紳士は女性の脈を取り、ゆっくりと女性の背中を正面に向けた。そして自分の膝を、女性の背中の真ん中あたりに置き「背骨が少し曲がっていますな」と、両肩を思いっきり引いた。 「ちょ、ちょっと!いきなり何すんの?死んじゃうじゃない!」乗務員が、慌てて割って入った。 「だって背中が気になって…」 「だってじゃないわよ!もう他にいないの?」 すると別の男性が手を挙げた。 「あなた先生なの?」乗務員が確認した。 「ええ、そうです」と、名刺を差し出した。 " 中島小学校 教員 " と書いてあった。 「あんた学校の先生じゃない!保健の先生が本当に役に立つの?」乗務員は言った。 すると教員は「いえ、国語が専門でして」と恐縮して、ぽりぽりと頭をかいた。 乗務員は、無言で鼻先にパンチを食らわせた。 「今まで、何見てたのよ!ったく!」 すると突然「大人しくして、全員手を挙げろ!」 ナイフを振りかざした男が怒鳴った。 「こっちは、それどころじゃないのよ!」 乗務員は叫んで、ナイフの男に裏拳を顔面に食らわせた。 そこでビデオが止まった。 部屋が明るくなると「はい、このようにハイジャックなどの危機回避には、色んな手順があります」 男性が言った。 乗務員訓練生の女性達は、各々頷いた。 訓練生のユミとサキは、小声で囁き合った。 「最初の医者のくだり、必要ある?」とユミ。 「裏拳で終わってますけど…」とサキ。 「この航空会社、大丈夫かな?」とユミ。 「で、倒れた女性はどうなった訳?」とサキ。 後で聞いた話では、このビデオがネットで拡散されて、百万件の " いいね " を叩き出したそうだ。 終わり
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