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6話 クビを告げられて
「お母さん、僕の麦わら帽子、何処へ行ったんでしょうか?」
「知らねーよ」マサトがテレビに向かって、突っ込んでいた。
「あなた、何かあったの?」私は旦那のふてくされた顔に声をかけた。
「あのさあ、職場を変わろうかなって、思ってるんだけど…」とマサトが言うなり私は「駄目よ!家のローンもあるし。何を考えてんのよ!」とまくし立てた。
「冗談だよ。もうすぐ昇進だし、それに俺が良くても、会社が許さねーつうの。がっはっは」
マサトはいつになく笑っていた。
次の日。
家を出て、俺は公園のベンチに腰掛けた。クビになり、二週間になる。「はー参ったな。あいつには言えないし、仕事も見つからないし。はー」溜息を吐きながら、アンパンをパクついた。
いつもの様に職安に寄り、そして夕方家に帰った。
「あなた最近早いのね」ヨウコが言うと「部下が優秀だからな。まっ、俺の指導あっての事だけどね。がっはっは」と見栄を張った。
「あなたにこれ、届いてたわよ」ヨウコはそう言って封筒を差し出した。
裏を見ると職安からだった。俺は慌てて、背中に隠した。
「どうして職安から来てるの?」冷めた目をして、ヨウコが訊いてきた。
「えー何でかなあ?あれ?もしかして職安からヘッドハンティングだったりして。なーはっは」と俺は急いで自分の部屋に駆け込んだ。
ヨウコはじーと目で俺を追っていた。
「あぶねーあぶねー」封を開けると面接の案内だった。面接日が決まったのだ!やった!
俺は声を出さずに、万歳をした。
すると突然、ふすまが開き「あなた面接決まったの?」とヨウコが言った。
「え?どうしてそれを?」俺は両手を挙げたまま驚いた。
「何年、夫婦をやってるのよ。おかしいと思うわよ。でも仕方ないじゃない、一緒に頑張りましょ。さあ、ご飯食べよ」ヨウコは優しく言ってくれた。
俺は感動して、ヨウコの胸に飛び込もうと、手を広げて「ヨーコ!」と叫びながら足を踏み出した。
途端にふすまが閉まり、俺は顔面をふすまにぶつけた。カッコ悪りー。
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