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好きだった彼の娘に恋をしてしまった事を嘆くも、事実である想いを手紙に綴り、そして破く。彼女がそこにいた証を自身で投げ捨ててしまった。
昔に人の気持ちを欲しがることがどれほど欲張りで強欲であり、そして与えられるべきものでない贅沢なものである事を彼女は思い知っていた。そして愛されることはなかった事も。
穏やかな春の兆しは夢物語、それはすべて御伽噺の中でしかあり得ないことだったのを思い出して、彼女はああやっぱりねと泣きじゃくりながら笑う。
「バカね、私。」
分かっていても、夢を見たかったの。
愛した人に愛されたいって思うのは当然じゃない。だから愛されたいって、そう願ってしまった。
そんな自分へ送るただ一言。
もう踏ん切りはついている。彼女はあの胡蝶と過ごしたあの日々を眺め、それからそっと手を離した。
あれから日常に戻り一躍時の人となった少女も、彼女のその後を知る事が出来ないし分からない。それに彼女が願ったように少女は高校生から大学生へ、それから社会人へと歩みを続け、その最中で彼女と過ごした時間は徐々に解かれていった。
やがて少女が一人の女性になり、結婚をしたその時。秋の暮れのような魂は、止まった初夏の風の中で幕を閉じた。
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