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「俺のことが特別だからじゃなくて、『わたしは誰にでもそうするし、そう言う。誰にも怪我で後悔して欲しくないから』って。練習試合で他校の部員の世話やいてるのも見たし、本当なんだと思う。だから勝手に俺が勘違いして好きになっただけだったってこと」
「勘違い……じゃないよ。時田くんはその人が好意的だったから好きになったわけじゃなくて、その人のそういう人柄を好きになったんでしょ? だから勘違いじゃない」
厳しくて、優しい。そんな人だから好きになったんだ。
わたしだったら相手に嫌われるかもしれない言葉なんて言えない。怪我の心配はしても、無茶しないように叱るなんてできそうにない。
見てるだけで満足なんて、動き出せずにいたわたしには時田くんの片思いの相手をうらやむ資格すらないのだ。
「槇、優しすぎ」
けど、ちょっと救われたって時田くんが言う。
「ほんとは彼氏みたいな人がいるの、知ってたんだ。部活ある間は、って距離置いてるみたいだけど、両想いみたいな。けど、告っちゃった」
「……うん」
そうせざるを得ないくらい好きで、あきらめていたのに実際失恋すると泣いた。時田くんの好きの気持ちが大きすぎて、まっすぐすぎて、それ以上言葉が出てこない。
それからは無言のまま残ったアイスを食べた。
甘い甘いアイスクリームなのに、胸がつまっているせいかほとんど味がわからない。
わたしは失恋した。誰にも届けないまま静かに、失恋をした。
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