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北東側には森林が広がっており、その森林の入り口は患者の憩いの場として小さな公園と遊歩道が整備されている。心身を癒すには恵まれた環境に置かれている。
月がきれいな夜は自然と心が踊る。佳子は大学病院の職員玄関から駐車場に向かう。
群青色が街の灯りに溶け込む。そして月が佳子を照らす。
幼少の心の箱庭を月は今でも照らしてくれている。
佳子の後を追うように月に照らされた影が付いてくる。
『月光に浸り、月影が舞う』
天から詩が降り注ぐ。
佳子は詩人の赴きに身を浸し足取りを軽くした。赤いミニクーパーの運転席に身をすべらすと、さっそくバックから先ほどの万年筆と、システム手帳を取り出して、月明かりを頼りに心影に浮かぶ詩を書き込んだ。
佳子にとって詩を書くことは心を平穏に保つことにほかならない。ストレス解消となる。散歩のときにコンビニで買ったポケットサイズの手帳に頭に浮かんだ詩を書きなぐる。
彼女の記憶の深淵にあるものそれはまだ彼女の夜が恐怖で塗られていた頃、彼女の夜はある絵本がきっかけで闇夜の恐怖から月夜の幻想へと解き放たれたのである。
木々の隙間から下弦の月が佳子の顔を覗くようにあとを追う。眼下に見える夜景がいつになく輝いて見えた。
先ほど眺めていた夜景のある場所へ赤いミニクーパーは溶け込んでゆく。
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