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明日の影
太陽が早々とその身を隠し、夜が支配を強める頃、人は物思いに耽る。
佳子は帰り支度の途中、おもむろに手帳を広げ、筆を走らせた。
太陽は知っている、夜が迎えに来ることを。
月は知っている、太陽がいつも見守ってくれていることを。
影は夜に身を委ね、光と共に地に舞い降りる。
そしてぼくは空へ帰る。
机の上には、『脳はどうして心を生み出すか』『精神疾患・処方箋一覧』『精神科医の心の置き場所』など、分厚いハードカバーが、それぞれ紐のしおりを垂らし、乱雑に机の上に積み重なっている。
積み重ねてある本に視線を写すし、ふぅーと溜息をつく。手に余しているモンブランの万年筆は医大に合格したさい父からプレゼントされたものである。
詩を綴ったシステム手帳はダ・ヴィンチとい名に引かれて購入したものである。
日はとっくに沈み、夜が早々と街に降り立つ。白い月がカーテン越しに部屋を覗いていた。
彼女はルキアの四角い文字盤を見る。時計の針は六時五分を指していた。
佳子はシステム手帳をたたむと、背もたれに身を預け、おもいっきり伸びをした。
「よし」自身に終止符を打ち、荷物をまとめ帰り支度を始める。
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