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「ほんっと、美味しそうに食べてくれるよねぇ」
言われて初めて恥ずかしさを覚え、肩をすくめる。
「だって、宇佐美さんの作る料理、ほんとに美味しいから」
「それ、最高の誉め言葉だなぁ。じゃ、俺は店閉めてくるから、ごゆっくり」
恥ずかしさを紛らすようにふてくされて言えば、彼は嬉しそうにくっと目を細めた。
「……ふぅ」
店へと戻って行く彼を見送って、またひと息つく。
もう一度、ソファに体を深く沈めて目を閉じる。
忙しいのはしんどい。
だけど、楽だ。
たっぷり疲れたら、何も考えられない頭で帰路について。
シャワーを浴びたらベッドに倒れ込み、あとは力尽きて、泥のように眠るだけ。
朝起きたらまた、時間に追われて、いつもと同じ1日が始まる。
考えなくていい時間は、楽。
ただ現実から目を背けているだけだと、根本的なものは何も解決していないのだと、わかっているけれど。
忙しさにかまけて、いつの間にか、そこにあるものが風化して、消えてなくなっていることを期待している。
戻らない人を想って泣くのは、救いがなくて、苦しいだけだから。
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