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「おい、あんた」
頭上から降ってきた声に、はっと目を見開くと、視界の端に、私を見下ろす一樹くんの呆れ顔が覗く。
「は、はい」
「……あんた、店長のこと狙ってんの」
考えたこともない問いに驚くあまり、まるでそこに縫い付けられたように身動ぎできず、ただ頭を左右に振って否定する。
「ふーん、そう」
一樹くんは素っ気なく相づちを打つ。
自分から聞いておいて、さも興味無さそうに。
「ほら、デザート。疲れてるだろうからって、店長が」
そう話す彼の視線を辿れば、知らぬ間に、オムライスの隣にちょこんと小さなグラスデザートが並んでいる。
「わっ!ありがとう、一樹くん」
「別に」
相変わらず素っ気ない受け答え。
普段からあまり感情を表に出さない彼に、どう対応したらいいのか、いつも困ってしまう。
「店長優しいけど……あの人天然の人タラシだから。好きになったら、また泣くよ」
「だーかーらー、そういうのじゃないってば」
これは助言なのか、牽制なのか。
とにかく、強めに否定すると、彼はそんな私を物言いたげに見るだけで、何も言わずに店へと消えていってしまった。
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