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「俺もいて、ガッカリしたでしょ?」
宇佐美さんが車を取りにその場を離れると、一樹くんが唐突に切り出した。
あんなに否定してるのに、未だに私が宇佐美さんのことを好きだと疑っているらしい。
「別に、なんにも思ってないよ」
「今のうちに、退散してあげようか?」
「いやいや。聞こうよ、人の話」
聞く耳を持たない一方的な一樹くんに、小さな苛立ちが芽生える。
「そうやって、興味のないふりして近付こうって魂胆だろ。前にもいたんだ、そういう女」
「私は!……長く付き合ってた恋人と別れたばかりで、正直、他の人を好きになる余裕なんてまだ全っ然、ないから」
当て付けのように深い溜め息を落として言う私を、一樹くんはじっと見つめる。
感情を映さないその目からは、何を考えているのか、全く読み取れない。
「……あっそ」
ふいっと背けたその横顔は、何故か少し怒っているような、拗ねているような。
なんとも理解しがたいものだった。
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