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「ねぇ、何か……怒ってる?私、知らないうちに一樹くんを怒らせるようなこと、した?」
「は?なんで」
私の問いに、彼は整ったその顔を歪めて見せる。
「なんで、って……いつも、私と話すときは、その……不機嫌そうだから」
恐る恐る言うと、彼は驚いたように目を見張り、数秒ほど固まったあと、その大きな瞳に戸惑いの色を滲ませた。
あぁ、しまったな。
大人気なかった、とすぐにそんな彼を見て悔やむ。
気まずい沈黙を一掃できるような言葉を探していると、ちょうどタイミング良く、ハザードランプを点滅させて車が近付いてきた。
「お待たせ。乗って」
運転席から体を伸ばした宇佐美さんが、助手席のドアを開けてくれる。
さて、ここは……どっちが?
そんな問いを携えてちらりと一樹くんを見れば、何か言いたげな彼の視線とぶつかる。
「どうぞ」
一歩下がって手で促せば、彼は難しい顔で、黙って助手席へ乗り込んだ。
あぁ、やっちゃったな……
そんな後悔と自己嫌悪を抱きながら「お邪魔します」と後部座席へ続いた。
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