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「はい、到着ー」
気を遣って話し掛けてくれる宇佐美さんと他愛もない会話を交わす間に、車はアパートの前に停車していた。
バックミラー越しに宇佐美さんと目が合うと、振り返った彼は「お疲れ様」と微笑む。
「わざわざ、ありがとうございました」
深々と頭を下げて、車を降りれば、助手席の窓があいて、仏頂面をする一樹くんの奥から宇佐美さんが顔を覗かせた。
「明日は仕事休みでしょ?お店の方はいいから、1日ゆっくり休んでね」
「え、でも……」
「日曜日はみんな次の日が仕事だからか、意外と暇なんだよね。なんなら友達連れて、お客さんとしておいで」
にっこりと微笑む宇佐美さんの優しさがじんと胸に染み入って、自然と顔がほころぶ。
「じゃあ、そうさせてもらいます」
「うん。じゃあ、おやすみ」
「気を付けて帰ってくださいね。一樹くんも。お疲れ様です。おやすみなさい」
それまでだんまりだった一樹くんは、やっとこちらを向いたと思うと、物言いたげに一瞥してから「おやすみ」とだけ呟いてすぐ、そっぽを向いてしまった。
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