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車が行くのを見送っていると、発進したと思ったのも束の間、車はほんの数メートル先で停車して、勢いよく助手席のドアが開いた。 すぐに一樹くんが飛び出てきて、私のもとに駆け寄ってくる。 「えっ、なに?どうしたの?」 状況を理解できずに首をかしげる私と、何度か口を開いては言葉を詰まらせ、視線を泳がせる一樹くん。 気まずさのあまり、やたら長く感じる沈黙に、ぎこちなく笑ってみせる。 「……違うから」 「え?」 「別に、怒ってないから」 「う、うん」 いきなり何のことかと、疑問に思いながらも頷く。 「……それだけ。じゃあ……おやすみ」 「お……おやすみ、なさい」 やっぱりいつもの、どこか不満げな表情でそう言って、彼は足早に車へと戻っていく。 その後ろ姿を見送りながら、彼の言葉の意味を探る。 「あ。もしかして、さっきの……」 何か怒っているのかという私の問いに、彼はずっと答えるタイミングを失っていたらしい。 それで、わざわざ…… 彼の不機嫌そうな顔を思い出して、思わず笑みが漏れてしまう。 「なんだ、そっか」 途端にあの表情が、とても可愛らしいものに思えてくる。 なんだか気分もよくて、鼻唄混じりにアパートへと帰路についた。
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