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甘くて香ばしい匂いに誘われて足を進めれば、その先には可愛らしい佇まいの小さなパン屋があった。
窓からそっと店の中を覗き込んでいると、ドアが開いた。
「やっぱり、りりちゃん」
聞き覚えのあるその軽い声は、開いたドアの向こうに視線を向けたのとほぼ同時に、頭上に降ってきた。
「宇佐美さん」
「見たことある顔だな、と思ったんだ」
どうやら彼は、店の中を覗き込んでいた私に気付いて、声を掛けてくれたらしい。
なんとなく決まりが悪くて、肩をすくめながら頭を下げる。
「ひとり?」
「あー……、なんか……自分だけの時間って久しぶりで、何していいか分からなくて。友達にも……声、掛けづらくて」
本当はそんな友達、いないのに。
咄嗟に口からでた小さな見栄が、私を余計に惨めにする。
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