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向かいに座る宇佐美さんをこっそりと盗み見れば、食事を進める表情は真剣そのもの。 新しいメニューの試作品とあってか、時々考え込んだり、満足げな笑みを浮かべて頷いたり。 普段はあまり見ることのない、コロコロと変わる彼の表情に、つい口元が緩む。 なんだか得した気分にさえなる。 「料理、好きなんですね」 私が居ることも忘れていそうな彼にそう問いかければ、彼は視線を上げてにっといたずらな笑みを浮かべて見せる。 「りりちゃんは食べるのが好きだよね」 「人を食いしん坊みたいに言わないでくださいよ。否定はしませんけど」 「いやいや、褒めてるんだよ。いつも、食べる前にはきちんと手を合わせて、残さず全部、本当に美味しそうに食べてくれる。そういうの、些細なことかも知れないけど、作ってる方からすれば、すごく嬉しい」 珍しく褒められたからか、それともこちらを見つめる彼の優しい瞳のせいか、なんだか恥ずかしくなって視線を皿に落とす。 「そ、そう……ですか?でもそれは、宇佐美さんの料理が本当に美味しいから、です」 そう言って、照れ臭さを紛らそうと料理を口に詰め込む。 きっとそれも彼にはお見通しで、クスクスと笑い声がするけれど、悔しいかな、彼の顔をまともに見ることができない。 「ありがとう」 「……いえ、こちらこそ。いつもありがとうございます」 せっかくのお礼も、ぶっきらぼうな物言いになってしまった。
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