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「そんな勿体振るような大した話じゃないんだ。その何かが、たまたま料理だった、っていうだけ」
返す言葉を見付けられず、ただただ小さく相槌だけを打つ。
だって、宇佐美さんの笑みと言葉の裏側に、深くて重い闇を見た気がしたから。
気付かない振りをして明るく笑い飛ばすこともできなければ、その闇に寄り添えるほど、私は彼のことを多くは知らない。
「部屋に閉じ籠っていた時期があってね。もうこのまま死んでもいいかって思うのに、お腹は空くんだよね。そんな俺を見かねた友人が料理を作ってくれたんだけど、それがまた、すっごく不味くて」
そう過去をなぞる彼の表情には、様々な感情がごちゃごちゃに混ざっている。
切なさ、苦しさ、喜び、悲しみ、そして時々怒りも。
「まっず、なんだこれ!お前、俺を殺す気か!!って怒鳴ったらさ。殺されたくなかったら、しゃんとしろ!って諫められた」
……あぁ、それはきっと、彼にとって特別な人なんだ。
その目を、表情を見れば簡単にわかる。
愛おしそうに思い出を見つめる瞳。
初めて知る、彼の表情。
何故だろう。
少し、喉が詰まる。
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