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「その料理っていうのがさ、本人いわく炒飯だったんだけど。油っぽくてねちっとして、具もなければ味もない代物で、本当に不味くて。ご飯を炒めたらチャーハンでしょ?って言うもんだから、作り直してやったんだ。これが本当のチャーハンだ!って」
宇佐美さんはもう、すっかりその当時の彼に戻ってしまっている。
言葉使いや表情が、それを物語っている。
壁を取り払った向こう側の、取り繕うことのない彼の本当の姿。
「そしたらそいつ、すっげー驚いた顔で、美味しい!こんなの初めて食べる!!って笑ったんだ。……その時のその顔が、よっしゃー!て充足感が、忘れられなくて」
はっと小さな興奮から覚めて、少し恥ずかしそうにしながら「……で、今に至る」と締めくくった。
「……素敵です」
言葉を探しても、得体の知れない何かが邪魔をして、そんなありきたりなものしか浮かばない。
それでも、彼は嬉しそうに微笑み返してくれる。
優しさを、細めた目の端に湛えて。
「本当に……だいぶ変わってるし、騒がしいし、面倒くさい奴らばっかなんだけど、俺は友人に恵まれたな、って思ってる。今度また、紹介するよ。なんだこいつらって、きっと思うだろうけど」
「そんな。……はい、楽しみにしてます」
なんだか、私の存在を受け入れられた気がして、ふふっと笑みがこぼれる。
さっき感じた胸苦しさなんて、まるで何もなかったかのようだ。
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