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「なに、どうしたの」 閉ざされていた瞳が徐に開いて、私を写した途端に、彼はその整った顔をくしゃりと崩す。 「難しい顔して」 目尻に刻まれた優しい皺を食い入るように見つめながら思う。 どうしたら、彼のくれる優しさに応えることができるだろう。 「はい。ちょっと……難しくて」 私の勝手な勘違いだったと、杞憂で終わるのなら、それでもいい。 けれど確かに、彼の笑顔の裏に垣間見える影がある。 彼の心の中にはきっと、ずっと、大切な誰かが住んでいて。 それは恐らく、報われない相手で。 寄り添ってあげたい、と思う。 私が今、こうして彼の存在に救われているように。 おこがましいかもしれないけれど、私が彼の心を少しでも軽くできたなら。 そう願わずにはいられない。
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