5

10/12
128人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
私が、"また"……なんだろう? 一樹くんが言いかけて残していった言葉にふと違和感を覚えたけれど、それよりも、今は彼への罪悪感の方が勝る。 まるで、彼がいつも宇佐美さんへの私の気持ちを疑うから、否定したみたいになってしまったけれど、さっき私の口をついて出た「違う」は、そうじゃなかった。 一樹くんが謝る必要なんて、これっぽっちもなくて。 ただ、自分自身に言い聞かせるそれだったのだから。 だって、こんなこと、あり得ない。 長年寄り添ってきた彼と別れてまだ、1ヶ月も経ってないというのに。 宇佐美さんに心揺れて、何かを期待している。 そんな自分が許せない。 ……タクマを思う気持ちがまだあるから? そうだったら良かった。 彼と過ごした時間を簡単に手放すことなんてできない、健気な自分でいたかった。 彼の隣にいた自分に誠実でありたかった。 でもそうじゃない自分が露わになって、必死にそれを隠している。 宇佐美さんが私に優しいのは、私が彼を好きにならないから。 優しい手も、少し意地悪な笑顔も、穏やかな声も、私が彼を求めたらその瞬間、消えてしまう。 何度も心の中でそう唱えては、「違う」と言い聞かせる。 心に芽生えた新しい”何か”になんか、絶対に気付いたりしない。  
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!