激甘アプローチと塩対応

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結局その日は朝から放課後の今に至るまで、京ちゃんに愚痴を聞いてもらった。 それなのに、ソワソワはまったく消えなくて、 部活中もやけにラケットを握る手に力が入った。 なんでって、最近休み時間ごとにうちのクラスに必ず来ていた悠君が、一度も来なかったんだもん! 京ちゃんとラリーをしながら今だって心のもやもやを聞いてもらってる。 「京ちゃん、悠君事故とかにあってないよね?」 「んなわけないでしょ」 「だって、こんなの初めてなんだもん。もしかしたら朝のあの子の告白にOKしたのかも……」 いつもなら悠君は、用もないのに私のところに来てた。 『沙羅が困ってないか、泣いてないか、息してるか気になって』って、どんなに時間がなくても私のところに来てた。 そりゃもう、うんざりするくらいに。 「やっぱりあのすきすき攻撃は暇つぶしだったんだね。人の心を弄んでたんだよね。悠君のバカヤロー!」 サーブではグリップに余計な力が入ってしまう。 「沙羅、落ち着きなよ。さっきからダブルフォルトばっかじゃん」   「だよね、あーあ」 ほんとにその通りだった。 コートの白い枠内に一個もサーブが決まらない。 「サーブ入んなきゃ、前衛のあたしの仕事なんもないじゃん」 そう言われてふと冷静になった。 「ごめんね、いつも通りのはずなんだけどな」 こんなんじゃ今度の団体戦でみんなの足を引っ張ってしまう。
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