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「佐野君の生存確認したいなら、ほらあそこ」
テニスコートのすぐ隣には体育館があって、開け放たれた入口からは、男バスの練習風景が見えた。
背の高いフェンスにへばりついて、中を見た。
バスケットシューズがフロアを踏みしめる摩擦音と、ボールのバウンドする音のなかに、男子たちの声が響く。
「普通に部活やってんじゃん!」
「よかったね彼ちゃんと生きてて。しかし相変わらずスタイルいいなぁ~佐野君て」
京ちゃんの何気ない一言に深く共感してしまうのがなんだか悔しい。
ボールを追う姿も、強引に攻め込むときの強気な顔も、くしゃくしゃの笑顔も。
高く飛んで散る汗も、立ってるだけの後ろ姿も……チームメイトに指示を出す声も。
正直、悠君のなにもかもがまぶしかった。
「部活辞めようかなって言ってたのにさ、やっぱふざけてるだけだよね」
私のためなら辞めたって構わない、なんて言ってほしいわけじゃない。
そんなの重いし嬉しくない。
でも、からかわれてると思ったら心は痛い。
もういっそのこと、私太っちょが好きなのって言って、悠君のこと遠ざけてしまおうか。
こんなにナイーブになっているのに、京ちゃんはとどめを刺すようにこう言いはなった。
「迷ってるうちに他の子に取られても知らないよ?沙羅が知らないだけで佐野君の告られ祭りは続いてるってことなんだからね?」
「なにそれ! うそうそ、うそだよね? 祭りって何? フェスってこと?」
「食いつくのはそっちじゃなくて、佐野君がモテすぎって現実があるってほうね」
京ちゃんはクールだ。クールなあまり、予期せぬ現実をいつも私に突きつける。
「今朝の告白で通算だと何人目かなぁ、うーんとちょっと待ってね」
そういって京ちゃんは両手の指を折りはじめた。
「もっ、もういい! 数えなくていい!」
人数なんか聞かされたら、妄想力豊かな私はあることないこと考えてしまう。それでたぶん容赦なく傷つく。
「現実から目を背けるのは自由だけど、佐野君に彼女ができたときになぐさめてあげられる自信、あたしにはないからね?だから素直に早いとこカレカノになったら?」
「カレカノって、どうやったらなれるの? 腐れ縁の私達がっ、ど、ど、どーやったら?」
京ちゃんに涙目ですがったら「素直になること」とあっさり言われてしまった。
それができたら苦労しない。
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