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 付き合い始めたとはいえ、まだ一緒に住んだりしているわけでもないし、お泊まりもまだである。無論、彼があたしを、そしてあたしが彼を深く知ることも、未だできていない。これからなんだ、と逸る気持ちを必死に抑えつけて、いつも断腸の思いでバイバイしている。最近の男は草食系が多いっていうし、あまりがっついて引かれても嫌だからだ。  とはいえ、こんなにも返事が返ってこないことが、辛いことだったとは。  彼とのメッセージのやりとりに使っているアプリの中のトークルームは、あたしの送信したメッセージが最新になっている。送信時刻の上には、相手がメッセージを読んだら「既読」とつく仕組みだけれど、未だそこには空白がぽっかりと空いている。送信時刻から既に四時間ほど経過している。  仕事? いや、あり得ない。あたしが退勤する時にちらりと覗いた彼の部署のフロアは、おそらく家にも居場所がないから仕事人間にならざるを得なかったと思われる、彼の上司しか残っていなかった。見ているだけで辛気臭くなりそうで、あたしはさっさとエレベーターに乗り込んだのだ。  じゃあ、彼は一体、いま、どこで、何を。
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