30秒

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 部屋のチャイムが鳴らされたのは、あたしが内心でそんな余裕をこいたことを呟いていた、まさにその瞬間だった。いや、待て。今はまだ、単にチャイムが鳴らされただけだ。自慢ではないけれど、あたしは家にテレビのアンテナがあるというだけで金をむしり取ってくるあの存在から逃げ続けているし、時々は本当にこんな遅い時間に無神経にもチャイムを鳴らしてくるから、そのたびに、逆に警察を呼んでやりたいくらいの気持ちを胸にしまいこんでいる。きっと今回もそうじゃないだろうか。来月になったらもっと大きな金が動くから…なんて、ヤクザの使いっ走りみたいなことを言って追い返したのは、ちょうど一ヶ月ほど前のことだし。  ドアスコープを、そっと覗く。    円形に歪んだその視界の中、ドアを挟んで向こう側にいる人物は、さっきまであたしが電話で言葉を交わしていた、彼だった。
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