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「そのー」
「その?」
「……最近、寝落ちしてばっかりだったんで」
「へ?」
「なんか、ほっぽっちゃって申し訳ないなー、と」
彼は、親の大事にしていたものを遊んでいる最中に壊してしまったことを告白する子供みたいだった。それはそれでまあ、見ものだったのだけれど、あたしはそれよりも、心に引っかかったものがあった。
こんなに真っ赤になってひねり出す理由が、それだったのか。
むしろ、これほど恥ずかしい思いをしてそんなことを言うということは。
きっと、彼は本当に毎日、眠ってしまっていたのだろう。あたしとメッセージのやりとりをしている最中に。確かに、目の下には若干隈が浮いていたし、満足に寝られているというわけではないらしかった。
それなのに、あたしは彼が違う女と寝ているんじゃないかとか、邪の限りを尽くした妄想を繰り広げていたということが同時に判明したわけで、あたしもあたしで、きっと顔は熟れきったトマトみたいに、真っ赤になっていたに違いない。ああ、やだやだ、酸っぱい。お腹が痛くなりそう。
この話にはオチなんかなくて、この後のあたしは、しっかり、ていねいに彼を寝かしつけた。いびきがうるさかった以外は、特にどうでもよかった。今、ここに彼がいるという、その事実だけで、お腹いっぱいになってしまったのだ。
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