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 十月も半ばになり、我が吹奏楽部は今、文化祭へ向けて練習をしている。  彬君に振られて、もう一か月以上がたつ。私はまだ立ち止ったまま。  みんなやさしい。クラリネットのメンバーも、ほかの部員たちも。みんな私と彬君が別れたことを知ってるけど、今まで通り接してくれる。  陽が落ちるのが早くなった。音楽室のある別館を出ると、空にはうすい月がのぼっていた。夕陽の名残のオレンジが、シルエットになった家並みと空の境目にある。ぼんやり眺めながら、悦子が靴を履きかえるのを待っていた。 「じゃな、雪乃」  明るい、ちょっとだけハスキーな声が飛んできて、どきんと心臓が跳ねた。 「あ。ばいばい、彬くん」  肩のところで、ひかえめに手を振る。にかっと笑うと彬くんは風のように駆けていった。きっと体育館に行くんだ。古賀さんのところへ。  バレー部の古賀さんは、小柄で、ショートカットで、よく笑ってよく弾む女の子。おとなしくて内気な私とは正反対の女の子。彬くんの、幼馴染。  学校のそばを流れる川の、土手の上の細道を悦子と歩いた。流れのすぐそばで、すすきの穂が揺れている。まだ開いていない、銀色の穂。風が吹いて一斉にそよぐさまは波のよう。 「腹減った―。コンビニ寄ってこうかなー」 「太るよ、悦子」     
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