10人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
十月も半ばになり、我が吹奏楽部は今、文化祭へ向けて練習をしている。
彬君に振られて、もう一か月以上がたつ。私はまだ立ち止ったまま。
みんなやさしい。クラリネットのメンバーも、ほかの部員たちも。みんな私と彬君が別れたことを知ってるけど、今まで通り接してくれる。
陽が落ちるのが早くなった。音楽室のある別館を出ると、空にはうすい月がのぼっていた。夕陽の名残のオレンジが、シルエットになった家並みと空の境目にある。ぼんやり眺めながら、悦子が靴を履きかえるのを待っていた。
「じゃな、雪乃」
明るい、ちょっとだけハスキーな声が飛んできて、どきんと心臓が跳ねた。
「あ。ばいばい、彬くん」
肩のところで、ひかえめに手を振る。にかっと笑うと彬くんは風のように駆けていった。きっと体育館に行くんだ。古賀さんのところへ。
バレー部の古賀さんは、小柄で、ショートカットで、よく笑ってよく弾む女の子。おとなしくて内気な私とは正反対の女の子。彬くんの、幼馴染。
学校のそばを流れる川の、土手の上の細道を悦子と歩いた。流れのすぐそばで、すすきの穂が揺れている。まだ開いていない、銀色の穂。風が吹いて一斉にそよぐさまは波のよう。
「腹減った―。コンビニ寄ってこうかなー」
「太るよ、悦子」
最初のコメントを投稿しよう!