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 そう叫ぶと、長谷部くんは真っ黒い短髪をかきむしった。同じ中学だった私は、その時のことをよく覚えている。  悦子は豪快に笑った。 「長谷部ってあがり症だもんねー。上手いのに、もったいない。ま、文化祭は気楽にやんなよ。同じ曲でうまくやれれば自信つくよ、きっと」  そうかなあ、と長谷部くんは眉毛をへの字にした。  そのまま、駅近くのコンビニまで三人並んでなんとなく歩く。  コンビニの中は、運動部上がりの、飢えた中高生でいっぱいだった。私たちはそれぞれ肉まんを買って、駅前の広場の、噴水のへりに腰かけて食べた。  彬くんとつき合ってた最初の頃、時々、こうして広場に寄り道してとりとめもないおしゃべりをした。だんだんそんなこともなくなって、ふたりでいても会話は続かなくなって、最後には、彬くんは義務みたいに私を家まで送ってくれるだけになった。  彬くんは、トランペットの音そのままに、明るくのびやかで、そこにいるだけで華がある。中学の時から片思いしてた。去年の合宿の夜、女子部員だけで恋バナ大会になって、請われるままに彬くんが好きと打ち明けたら、それからことあるごとに悦子たちが盛り上げてくれるようになった。夏のコンクールの打ち上げで勇気を出して告白した。十六年の人生の中で一番ドキドキした瞬間だった。     
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