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そして一年が過ぎ、私たちはまた、ただの友達に戻った。たとえ別れても、同じ音楽をつくる仲間だし、ぎくしゃくするのは嫌だった。だけど、私が引きずっていることで、みんなに迷惑をかけているかもしれない。げんに、今日の合奏にも集中できなかった。
「もうすぐ電車の時間」
悦子が腕時計を見て言った。
「んじゃあ、あたしは行くね。長谷部、ちゃんと雪乃のこと送ってってね」
「おう」
長谷部くんが片手をあげた。
夜は一段と深くなった。国道を行きかう車のライトや、信号機や看板のあかりが闇ににじんで見える。
「あー、やばいかなあ。有馬さんとふたりで歩いてるとこ、誰かに見られたら。彬にしめ殺される」
「は?」
思わず、立ち止った。
「もしかして、知らないの?」
「なにを?」
本当に知らないらしい。もう一か月半も経つのに。
「あのね。別れたの、私たち」
長谷部くんは、えっ、と目を見開いた。
「ごめん、その……」
深々とうなだれる。
「俺、にぶくて。まじでにぶくて、そういうの」
「いいよ、気にしないで」
笑顔をうかべてみせたものの、何だか気まずくて、二人ともそのまま黙り込んでしまった。
国道の裏道から脇道へ入り、住宅街へと進む。長谷部くんは申し訳なさそうに、すぐ後ろをついてくる。
ブランコの軋む音がした。気づいたら、彬くんに別れを告げられた、小さな児童公園の前まで来ていた。立ち止まる私に、どうしたの、と長谷部くんは遠慮がちに声をかけてくれる。
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