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 糸が切れた。かろうじて保っていた私の強がり。  別れたあとも、約束通り「友達」に戻って、いつも通り明るく接する私に、彬くんはあからさまに安堵していた。だから私は演技を続けた。教室でも、部活でも。それなのに。  私は毎晩泣いた。だれにも言えない。まだ好きだなんて、言えない。  文化祭が一週間後に迫って、放課後、どのクラスも準備に大わらわだ。我が二年二組はお化け屋敷をする。彬くんと古賀さんも、きゃあきゃあ騒ぎながら幽霊のコスプレをしている。  教室でいつも一緒にいる佐奈ちゃんが、これみよがしにため息をついた。 「つーか無神経すぎね? ひとの彼氏取っといてさあ、なんで平気な顔していちゃいちゃできんの?」  クラスでの友達は、部活の仲間と違って容赦ない。特に佐奈ちゃんは、いつも古賀さんの悪口を言い、私のことを「お人よしすぎる」と責めた。  何も言えなくて、私は暗幕のほつれを縫う手を止めた。私のことを思って怒ってくれるのはありがたいけど、古賀さんを悪く言うのは気が引ける。ますますみじめになるようで。だけど佐奈ちゃんを止められなくて、そんな自分にいらいらもする。 「有馬さあん」     
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