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 夏も近いというのに革の外套をまとい、墨染綿地の開襟、下に穿いているのも夏向きではない黒革のパンツ、そして革靴。なにより目を引くのは女のように長く伸ばした髪と、その髪色であった。青味がかった銀色である。そんな髪色など終ぞ見かけたことがない。肌の色も必要以上に白いものだから、対面に立つ店番はなんだか直視できないでいる。 「客相手ばかりじゃないだろう、商売って。帳簿付けだの在庫整理だの、掃除だの、やることはいっぱいあんだ」 「それはすまない」  案外素直に謝罪したものだから店番は正直面食らう。 「お、おう、わかってくれたか」 「ああ。終わるまで待とう、存分に働いてくれ」  それは大きな溜め息が吐き出された。店番は近くにあった蝦蟇の香炉を引き寄せると、そこでやっと咥えていた煙草に火を点けた。 「店主はどうした」 「……だからさっきも云ったろ。云わなかったか? 今日は懇意にしてくださってるお得意先にお呼ばれしてんの。ご馳走喰って芸者揚げての贅沢三昧だろうさ。ま、この店はここいらじゃそれなりに名が売れてるし、付き合いも深くなるとそれぐらいの役得はあるわけだ」 「それでお前ごときが店番をしているのか」 「失礼だぞ。客は神じゃねえ、客と店は対等なんだよ。俺らは品物やら技術やらを提供する、客は対価を支払ってそれを受け取る、それだけの関係だ、そこに上下はないんだよ。勘違いしてそうだから云ってやった」 「正論だ」 「お、おう……」  今度こそ反論があるのだろうと身構えていたのだろう、店番はあからさまに肩透かしを喰った顔をした。     
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