11/24
前へ
/728ページ
次へ
「正論だよ。当然だ。とは云えだ、普段はもっとへりくだってますよ、地面におでこ擦り付けんばかりに」 「何故そうしない」 「正論って云ったくせにもうそんなこと云うか。いいか? あんたは法に触れるものをよこせと先からゴネてんだぜ? 力づくで追い返すこともできるんだぞ」 「ではそうしろ」  客の男は、その痩躯から想像しがたいほど重厚で雅やかな声で尊大に云う。一方の店番は爆ぜる寸前といった風情。 「簡単に云ってんじゃねえよ。それとも、この期に及んで本当に叩き出されないとか勘違いしてないか? 怪我しないうちに帰りな」  客の男は軽く腕組みをして、右手を顎先に添えた。 「欲しい物を手に入れたらな」  店番は喉を鳴らし、横を向いた。 「しつけえ。やばい、しつこい。いくら食い下がったって無駄なのに。ねえもんはねえ。ねえもんを在ると云うのが詐欺師で、あるもんをねえと云うのが哲学だ。その逆も真なりってな」 「卓見だな」 「馬鹿にすんな、学はあるんだ」 「そうだな。本草学は憶えることが多い」  店番はわずかばかり感心するように身を引いたが、すぐに後ろの棚に背が当たって首を竦める格好となる。あまり広い店ではない。     
/728ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加