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「正論だよ。当然だ。とは云えだ、普段はもっとへりくだってますよ、地面におでこ擦り付けんばかりに」
「何故そうしない」
「正論って云ったくせにもうそんなこと云うか。いいか? あんたは法に触れるものをよこせと先からゴネてんだぜ? 力づくで追い返すこともできるんだぞ」
「ではそうしろ」
客の男は、その痩躯から想像しがたいほど重厚で雅やかな声で尊大に云う。一方の店番は爆ぜる寸前といった風情。
「簡単に云ってんじゃねえよ。それとも、この期に及んで本当に叩き出されないとか勘違いしてないか? 怪我しないうちに帰りな」
客の男は軽く腕組みをして、右手を顎先に添えた。
「欲しい物を手に入れたらな」
店番は喉を鳴らし、横を向いた。
「しつけえ。やばい、しつこい。いくら食い下がったって無駄なのに。ねえもんはねえ。ねえもんを在ると云うのが詐欺師で、あるもんをねえと云うのが哲学だ。その逆も真なりってな」
「卓見だな」
「馬鹿にすんな、学はあるんだ」
「そうだな。本草学は憶えることが多い」
店番はわずかばかり感心するように身を引いたが、すぐに後ろの棚に背が当たって首を竦める格好となる。あまり広い店ではない。
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