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「本草学なんて言葉よく知ってるな。まあ、口幅ったいことこの上ないが、本草学って云や、薬の知識だけじゃねえ、薬のもととなる生き物や草木についても様々学ばないと一人前になれねえ学問さ。ホラ俺の後ろの棚、ずらっと本が並んでるな。ここにあるだけで五十と三。これが今一番出回ってる本草学の指南書だが、正編四十八に追記修正編が五冊ある。んで、ここにゃあ並んでねえが、これが刊行された後、一年に一冊続編が出て五年に一冊部分改訂版、都合二十年で二十四、さらに今から八年前に補完編が十冊刊行されてる。それを全部頭ン中ぶっこんで、尚且つ実地の経験も積まなきゃならない」 「修行は順調かな」 「あんたに話すことじゃないね」 「早く一人前になって店主に認められるといいな」 「認められてるからこうして店任されてるんだろうに。わからないかな」 「本気でそう思っているのか」 「ほんと失礼な野郎だ、へし折るぞ」  客の男は店番にどう云われようともまるで意に介さない。聞いていないのではなく、気にならないのだ。  奇妙な男だと、店番はつくづく思う。  奇妙な客は少しだけ顎を引き、わずかばかり上目遣いとなって店番を見つめ、 「本気で、認められていると、そう思っているのか」  置くように云った。金属的なざらつきのある声に店番は身震いする。 「売るものを売れ。あとはどうでもいい」 「……おい、あんま粋がるなよ」  店番は凄んでみるも、やはり効果はなかった。 「ふん。じゃあ訊くが、たとえばあんた、催淫剤を手に入れてどうする気だ? あんたみたいな青瓢箪、おっと失礼。青瓢箪が薬を使ってまで女をどうこうしようと目論むタマには見えないんだよな。うん、見えんよ。人は見かけによらねえとは云うが」  店番はそっぽを向いた。苛立ちも頂点に達すると冷静さを取り戻すようだ。     
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