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嫌われつつも男は、年に幾度か、ときには月に幾度か街へやってきた。何分目立つ外見をしている。因縁をつけられること毎度であったが男は動じなかった。殴られることもあった、唾を吐かれることもあった。それでも、押し黙ってひたすら耐えていれば、相手は罵言を残しつつ立ち去った。男が挫ける様子さえ見せなければそれ以上の暴挙に出ることは少ない。所詮浮世の憂さを他者を虐げることで晴らそうとしているだけの軽輩である、弱味を見せねば付け込まれることもない。
嫌われながらも通い続けるのは、やはり自分の生まれ育った土地の先行きを憂えているからだ。このままの暮らしを続けていては遠からず故郷は大国に蹂躙される。土地は奪われ、人は虐げられる。実際に、男の育った村から東の土地は、ある大国に侵攻され、使える者は隷属させられ使えぬ者は虐殺された。それを知っていたからこそ男は、殴られても蹴られても何度もこの街を訪れた。
男なりの生き残りをかけた作戦を成就させるために。
繰り返す。
姻戚を結ぶことによる異国との平和的融合。
我その先駆けたらん。
しばらくは悪漢以外で男に寄るのは客を選ばぬ街娼(このあたりでは川女などという)ぐらいだったが、それでも幾度も人込みに塗れていれば何かしらあるものだ。
出会いは唐突であった。
その日も散々殴られた。相手は四人だったか。毎日仕事もせずに飲み歩いている手合い。顔は知っていたが名は知らぬ。
殴り返してみろデカブツと罵られ、腹を蹴られ、唾を吐かれた。地べたに顔を押しつけられ、泥を舐めた。それでもひたすら耐える。飽きて立ち去るのをひたすら待つ。
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