雨のように、

「課長、おかゆ作っておきましたから、起きられるようになったら、食べてくださいね」

そう言いながら、玄関先で振り返った。まさか寝ているはずの課長がそこにいるとは思わなかったゆかりは、ふらつきながらも壁に手をついて立っている彼が背後にいたことに驚いて、きゃっと声を上げそうになった。

「課長……、寝ていてください。熱があるのに残業していたなんて……。しっかり休んで治してもらわないと困ります」

　課長の方を向いたまま、狭い玄関を後ずさり後ろ手にドアノブを回そうとする。何回かやってみてドアを薄く開けることができた。冷たい風がぴゅうと吹き込んできて、ゆかりの足元を冷たい冬の風がなでる。

ーー寒っ。早く帰らなくちゃ。

　もう一度後ずさり、自分の体ごとドアを押した。ドア越しに何かがあたる感触。あれ？誰かいる？