雨のように、

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 翌日高熱が出たゆかりは、結局三日間欠勤した。熱は下がってきたが、まだ身体の節々が痛くて起き上がるのも億劫だ。広くもない自室のアパートの天井がグラグラと動いている心地がする。熱と、ここ何日かまともに食べれていないせいだろう。  ーー絶対、確実に課長からもらった風邪だわ……。  風邪の質の悪さはウイルスの宿主のせいだろうかと考えて、一瞬、月島課長とのキスを生々しく思い出してしまう。課長の熱っぽい唇の感触。無意識のうちに、手が口元にいっていた。ハッと気が付き、ゆかりは反射的に頭をブンブンと振ってしまった。……、だ、ダメ。くらくらする……。枕に頭を押し当て目眩をやり過ごす。頬が熱いのは、熱がまだあるせいだから、と自分に言い聞かせる。  ベッド横では、高校からの友人である小夜子が、お見舞いに持ってきたリンゴを何故か自分で皮ごとかじっていた。小夜子もゆかりと同じ会社だが、課が違うため平日に会うことはまれだ。熱が出たと電話で伝えたら、すぐにお見舞いに来てくれた。いい友達だなとは思うんだけれど。 「小夜子ー、お水欲しい」 とうつ伏せのまま言ったら、水道でコップに水を汲んで来てくれた。体を起こして、ありがと、と言いながらコップを受け取る。コップの水面を見て思わずため息が出た。ため息でさえ熱を帯びている。まだまだ熱は下がりそうにない。そのため息をどう勘違いしたのか小夜子が 「熱いため息なんかついちゃって、誰かさんのことでも考えてた?」     
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