雨のように、

5/109
1223人が本棚に入れています
本棚に追加
/109ページ
なんていうものだから、ゆかりはぎょっとして小夜子の顔を見上げた。小夜子がバチっとウィンクをしてくる。 「いや、ホント驚き。まさかゆかりが、あの月島課長と付き合うなんてねー。彼氏いない歴、何年だっけ?」  遠慮のない質問にげんなりとしながらも、 「二十五年、年齢と一緒。それにつきあってないし。課長が突然、言ってきただけで」 とゆかりはカラになったコップを小夜子に渡して再び横になると、布団を顎のあたりまでひきあげながら答えた。小夜子がぷっと吹き出した。おなかを抱えて、ひーひー笑い苦しんでいる友人をベッドの上から見下ろして、ゆかりはため息をついた。そんなゆかりに小夜子が、 「いーじゃん、あの月島課長だよ。イケメンな上に仕事もデキる。ゆかりちゃんの空白だった恋愛ノートに、いよいよ文章を書きこむ日が来たってことで」 「何、恋愛ノートって」  ゆかりが半眼になって、小夜子をちらりと見た。 「ゆかり、高校の時文芸部だったじゃん。だからそんなノート、持ってそうだなって」  高校からの友人らしい、小夜子の軽口だった。バカバカしくなって、ゆかりは布団を頭から引き被った。 ーー恋愛しないのは私なりに理由があるんだから……。     
/109ページ

最初のコメントを投稿しよう!