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中学は卓球部だった。入ってすぐ、人には向き不向きがあるんだと分かった。他のみんなは校庭十周走るところを、八周でへたばってしまう。しかも、要領が悪くて部のみんなにやっとでついていくという感じで。
だから高校は文芸部に入った。文芸部なら、走り込みしないし、という完全に逃げの気持ちから選んだ部だった。文芸に興味があったわけでもなんでもなく。
そこでセンパイに出会った。センパイの詩、言葉、仕草。すべてがキラキラと輝いてゆかりの瞳には映った。別段カッコよくも何ともないセンパイだったけれど、しゃべったあとに見せる、はにかんだ表情や、校舎のガラス越しに映る、センパイの横顔を見るのが大好きだった。
部の三年生が退部する時に、思い出づくりにと、部のみんなで遊園地に遊びに行った。
普段は学生服のセンパイの私服に、ちょっぴりドキドキしてしまう。センパイが、ゆかりが普段つけない色付きのリップに気づいてくれればいいのに、と歩きながらセンパイの横顔をチラチラ見ていたことを思い出す。薄く化粧をしてきた子もいたから、私の色付きリップなんて印象に残らなかっただろうな、と思うけれど。
すっかり暗くなり、パレードも見終わって、帰ろうという頃に、後ろからセンパイに呼び止められた。
「……何ですか?」
月が、ふたりを照らしていた。流れる雲が月の光を時折さえぎる。
「これ、香月にあげる」
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