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囁き続ける彼女が俺の頑なな心を萎えさせる。もういいだろう。それが彼女のためなら、応えてやるべきだ。仕事なんて関係ない。またあとで取り返せばいいだけだ。女に誘わせて受けないのは男の罪だ。そんな妥協する感情が生まれてくる。
……妥協? そうか。妥協、それはいけない。
なにげなく浮かんだ言葉が、萎えかけた心を呼びもどす。
仕事でもなんでも、妥協はいいものを生まない。彼女を悲しませるリスクは負うことになるが、それは仕方がないと割り切ろう。自分の弱い心に打ち克つためには、彼女に言葉をかけなければならない。 勇気を持って、改めてこの一言を放つ。
「だめだ。今日は勘弁してくれ」
やった! この一言にどれだけ悩んだことか! 俺は心の中で小さくガッツポーズをとった。大得意分野である講師の仕事を、別の候補との競合を勝ち抜き、しかも長期で取ったような気分だ。
もちろん、これは序章にすぎない。たった一回断っただけだ。
彼女は、俺がどうすれば堕ちるか、よくわかっている。いつもと違う彼女とのひとときは、始まったばかりだ。
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