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【4】
張っていた気がほんの少し切れたそのとき、あの声が脳内の奥底に突き刺さってきた。
「休憩ですか? でしたらこちらにどうぞ」
彼女だ。
仕事ですっかり忘れていた。忘れたことも忘れていたほど没頭していた。脳から背筋にかけてゾッと戦慄が走り、思わず立ち上がる。
今日一番の優しさを込めて俺を誘惑する彼女。繁華街で客として誘うような女ではない。子供の傷ついた心を慰めてくれる母親のような。
これが彼女のいつもの手だ。彼女は自分の誘惑に効果がないことを悟ると、一旦引く。俺の集中力が途絶えたところを見計らって、再度誘惑を仕掛けてくる。
そのダメージは、予想していない分、数倍にのぼる
たとえるなら、さっきまでは歩兵の一斉射撃で、今は一流スナイパーが一人で俺を狙っているよ
うな状態だ。ターゲットとして『狙撃』されるのも時間の問題かもしれない。俺は彼女のこれがとても苦手だ。八割がた彼女に狙撃されてしまう。それでもいいと思ってしまう。
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