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【5】
誘惑に打ち勝ってまでした仕事は問題なく終了した。
客先の確認がなされ、評判も上々。
仕事をしたという充実感と彼女のことで頭がいっぱいになる。
そしてついに、彼女の誘惑を受け入れる、そのときがやってきた。
もう彼女を拒否する理由は、何も無い。ゆっくり、彼女とのひとときを過ごすことができる。それでこそ、昨日がんばった甲斐があるというものだ。
彼女には本当に悪いことをした。今日は二倍かわいがってあげられるし、もてあそばれるだろう。彼女の誘惑を受け入れる前に、やるべきことをやっておく。食事をし、風呂に入り、慣れない酒を呑む。テレビで経済情勢を把握しておく。戸締りは確認した。そろそろ彼女の出番だ。
「さあ、いらっしゃい」
一日断り続けたせいか、彼女の言葉が脳や頭はおろかつま先まで全身に染み渡る。彼女の誘惑に身を委ねる幸せを感じる。
長かった。寂しかった。苦しかった。辛かった。すまなかった。いろいろな感情が押し寄せる。俺は部屋の電気を消し、ベッドに身を横たえ、彼女を頭からかける。彼女は全身で俺を包みこみ、受け入れてくれる。不義理な俺を許してくれる。
全身の活動がゆるやかに停止する。布団の中の世界に身をゆだねた。
今夜の彼女との一夜は、少し長く、濃くなりそうだ。
(就寝)
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