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「そういえば、名前……聞いてなかったね」
「ハサン・イブラーヒム」
「ハサン(善良)か……」
「あなたの名前は?」
「ジョン・スミス……ジョンでいい」
「ジョン……分かった」
ジョン・スミスという名前がムハンマドのようにありふれた名前だということを何となく知っていた。それが本当の名前か、そうでなくとも私は構わなかった。
ただ、この男がしようとしていることを阻止しなければいけない、そんな気がしていた。
食事を終えて彼はレジ前で支払いをする。レシートの空白部分にサインを求められ従う男。そこに記された落書き文字は"John Smith"のようにも、違うようにも見えた。
「今、どこ行く?」
車を走らせてすぐにそう私は話し始めた。
「さっきのピラミッドに戻ってくれ」
「ナイルは見るか?」
「興味ない」
「違うピラミッドある」
「メンカウラーのピラミッドに行ってくれ」
「中、案内する」
「必要ない」
「なぜ?」
「彼はあそこにはいない」
「知ってる。どこかの海、落ちている」
「いや、落ちてなんかいない。僕はここにいる」
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