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「あなた、話す……私聞く」
「何を?」
「理由……」
ミラーから覗いた彼の表情は途端に強張る。唾を飲み込んだのか、何度か喉を動かして顔を上げた。
「必要ない」
一瞬の気の弛みを正すように冷淡に男はそう言い放つ。それを聞いて私は押し黙った。
メンカフラーのピラミッドまで戻ると男はまたそこで祈り始めた。十字を切るわけでもなく、男は何かを懇願するように呟く。
メンカフラーが過去の自分であると、そう信じ切っていたとして、どうして今頃崇めに来たのか。となれば、やはり死を覚悟しているとしか私には考えられなかった。
もし彼が正気でないとするなら、とっくに私を殴るなり、殺すなりしているはずだ。
運転している間に逃げることも可能だったはずなのに、彼はそういった行動を取らなかった。私の英語力がないだけで、彼の受け答えはしっかりしている。
そこまで考えて私はふと彼に目を向けた。
(まさか、本当に彼がメンカフラーの生まれ変わりだとでもいうのか?)
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