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「……それだけ?」
私は何かを過信していたかのように、呆気ない返事を一つ漏らした。
彼はそれを恥ずかしげもなく、真剣な眼差しを向けて大きく頷く。
「ああ……それだけだ」
笑う気も起きなかった。笑ってしまえば、もう二度と彼の本心を探ることができないような気がした。
互いに交わした簡素な言葉とは正反対に、ここには緊迫する何かが確かにあった。
それは宇宙を構成する物質の謎を解明するかのような困難さを秘めていて、何一つ私には関係のない、途方もない物事であったに違いない。
それにも拘わらず、理屈ではなく、事象を感情で拾う彼の精神性は事の信憑性を裏付けるには充分だった。
人を納得させるだけの道理もなく、信仰心もなく、メンカフラーのピラミッド前で涙する。リインカネーションがただの妄想だったとしても、彼が瞬時に魅せられたことは紛れもない事実なのだ。
その衝動を賞賛するのはおかしいのかもしれない。だが、荷物の用意もせずにこうして目の前で必死に佇まれると、感心するほかない。
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