一期一会

19/20
前へ
/20ページ
次へ
 恐らく、彼には死ぬ気などない。誰かを襲うつもりもない。ただ、純粋にここに来たかったのだ、と私は結論付けた。 「あなた、やっぱり変」 「ああ、よく言われる……」  彼はぎこちない嘲笑を見せた。 「写真撮ろうか?」 「いや、いい。ありがとう」  最初に見たよりも、無邪気な顔で彼はそれを言った。私の表情もまた一段と穏やかだったに違いない。  結局、暗くなるまで彼はピラミッドを拝んでいた。車内に一晩彼を泊めて、翌朝空港まで送った。 「ハサン、君は名前の通りの人だった。ありがとう」  別れ際にそう言って、彼は私と握手を交わした。 「あなた見たいと思う、もう一度来い。また案内する」  私は彼をハグしてそう告げると、彼は笑った。 「ああ、お願いするよ」  腕を解いたと同時に彼はそう言葉を放ち、ゲート内に入って行った。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加