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恐らく、彼には死ぬ気などない。誰かを襲うつもりもない。ただ、純粋にここに来たかったのだ、と私は結論付けた。
「あなた、やっぱり変」
「ああ、よく言われる……」
彼はぎこちない嘲笑を見せた。
「写真撮ろうか?」
「いや、いい。ありがとう」
最初に見たよりも、無邪気な顔で彼はそれを言った。私の表情もまた一段と穏やかだったに違いない。
結局、暗くなるまで彼はピラミッドを拝んでいた。車内に一晩彼を泊めて、翌朝空港まで送った。
「ハサン、君は名前の通りの人だった。ありがとう」
別れ際にそう言って、彼は私と握手を交わした。
「あなた見たいと思う、もう一度来い。また案内する」
私は彼をハグしてそう告げると、彼は笑った。
「ああ、お願いするよ」
腕を解いたと同時に彼はそう言葉を放ち、ゲート内に入って行った。
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