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そして彼は露骨に、私の車を止めてきた。怪しいと感じながらも500ギニーも払うと言ってきたため、仕方なく男を乗せた。
そうして着いた小さいピラミッドの前で彼は突然涙を流したのだ。
ドランカーかジャンキーか。常人ではない雰囲気を身に纏いながらも、男はあくまで普通を装っていた。
石に触れながら俯く彼の横顔を眺め、私はその辺に転がった石に座る。
「ありがとう。もう大丈夫」
数分が経って流暢な英語が耳を掠めた。見上げると彼は目の前で金を差し出していた。
「シュクラン・ガズィーラ」
慣れないアラビア語でもう一度『ありがとう』と彼は言った。それでも私はその金を受け取ろうとはしなかった。
「これじゃ足りないのか?」
英語でそう続ける彼に対して私は顔を左右に揺らす。
「あなたを宿に帰す、それ、私の仕事」
「ピラミッドまでの案内で充分」
「最近、ここ、あまりよくない」
治安のことを言ったつもりだったが、単語が出てこずにそれだけ返した。
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